展示作家紹介、谷尾勇滋(美術家/日本)

2020年参加アーティスト
展示作家、谷尾勇滋の紹介です。
日常風景や記憶などを題材にしながら、新たな写真表現を探求している谷尾さん。最近ではまちなかアートギャラリー2013での作品が記憶に新しいのではないでしょうか。

谷尾勇滋 / 2012年の個展より「soundgraphy」(福岡市街、須崎町問屋街の風景)
風景とともに、その場所の環境音を写像にするという作品。
tanio_works

そんな谷尾さんの表現方法は、糸島の山の中よりも混沌とした街中の方が親和性が高いような印象があります。
なぜ糸島芸農に?
そんな疑問を谷尾さんにお伺いしました。

 

「糸島芸農が開催される松末地区の穀倉地帯の美しい風景、またそこを取り巻く集落の印象、このような場所で芸術祭が展開されていることに美を見出しました。
私は作品を制作する上で重視するのは、もともとそのまちが持っている原風景というか、その地域特有の風景の美しさというものがあると思いますが、そうしたものにおいて、単なる懐古的な視点で捉えるのではなく、風土や風習によって生きている風景(人々が大切にしてきたもの、守ってきたもの、あるいは時代の変遷の波に打ち勝てなかった痕跡)その中にこそ重要な価値があるのではないか、と考えています。

 

展示作品の取材写真 / 糸島松末、稲穂の実った穀倉地帯の写真
松末取材
展示作品の取材写真 / 故郷である広島県尾道市、港町尾道の写真
尾道取材1
それが近年では急速な都市開発や地域開発によって、私たちの生活は便利になりつつありますが(当の私自身もそれを享受している)、そのことによってどの都市や地域に行っても同一で特徴のない光景を目の当たりすることが多くなってきました。
また、過疎地域では若年者層の都市への流動化、その反動によって生じる高齢化、果ては人口減少となり、次第に活気を失っていきます。
それを食い止める手段として、新興住宅地などの誘致で再興を図ろうとするも、その開拓によってまたひとつ風土や風習が失われていくという負のサイクルのようなものに陥ってしまいます。
そうした矛盾点についての考察も現代においては重要なことであると考え、問題点という観点から、作品として扱うテーマの一つになっています。
この糸島芸術祭のようなアートプロジェクト事業の他、地場産業や地産地消商品の開発によって、地域のより良い資源を無駄にすることなく生かしていき、活性化を図る取り組みも最近顕著になってきていますが、こうした解決策も一つの鍵でしょうし、よい方法であると僕は思っています。(現実的な情勢や資金面のやりくりも大変だとは思いますが…)」

 

稲荷山を下見中の谷尾さん
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また、今回のテーマになっている権九郎稲荷の山にどんな印象をお持ちですか、との問いかけに

 

「稲荷山の雰囲気・・・密林が佇む様子、木の葉がかすれ合う音、山の匂い、どこかに獣が潜んでいる気配・・・
これらが稲荷という眼に見えない存在を醸し出しているように感じました。
ちょうど、山の中腹の赤い祠のたもとに、 はしごの作品を展示することになり、そのことが人間が使う為のものではない、山に棲む生物(神々の化身??)が使う為ものではないのか?
という、当初 山で感じて打ち出したコンセプトを強調するかたちになり、イメージに近いものになったのではないか、と思っています。」

 

山中に展示してある作品を製作中の谷尾さん。
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最後に二点の作品を出展している谷尾さんに展示作品の着想やコンセプト、また作品の見所など教えてもらいました。

 

「神社本殿で展示している写真作品は、“稲荷という存在は私たちの日々の生活の営みの中にこそあるのではないか”という着想で制作したものです。
稲荷山で展示している作品は、実際に山を歩き感じた何か神懸かり的な空気感、未知なるもの、天に向かう、という抽象的な事柄を表現したオブジェのインスタレーションです。
 故郷である尾道の路地に鎮座する稲荷祠や、魚売りの行商人の歴史について調査した資料付きという写真作品の見所として、稲荷の祠とそこに暮らす人々との関係性に注目してご覧ください。」

 

松末地区の稲穂の写真は、神へのお供物というスタイルでの展示方法に注目のようです。
稲荷山中腹の赤い祠のたもとにある作品の見所として、
稲荷山で集めた枝で組上げた6m程の大きなはしご、天へ延びるその佇まいに注目です。

「展示作品から思考したり、その表現を楽しんだりして頂けたらと思います!」

芸術祭も残すところ後2日間、皆さんぜひとも現地にて作品をご覧になってください。

 

 

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 谷尾勇滋(Tanio, Yuji/たにおゆうじ)美術家

1978年広島県尾道市生まれ、福岡市在住。九州産業大学大学院芸術研究科修士課程美術専攻修了。
2000年から活動を開始する。日常風景や記憶などを題材にしながら、新たな写真表現の可能性を探求した作品を制作している。近年では様々なアートプロジェクトに参加している。
 
 
 
 

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