麦庵 BAKU-AN(2020)
糸島市二丈松末地区に広がる麦畑。糸島国際芸術祭「糸島芸農」のシンボルともなっている風景である。毎年4月から5月にかけて麦が風に靡く光景は本当に美しく、わずか1か月の間に緑から黄金へと景色が移り変わる。
その広大な麦畑の真ん中を少しだけ刈り取り、畳を敷いて茶室としたらどんなにすばらしい空間ができるだろうと考えたのが今回のプロジェクトである。
茶の湯空間の入り口である腰掛待合を土手に置き、麦畑の畝をそのまま利用した露地を通って茶室へ進む。大人の胸の高さあたりまである麦の露地である。腰掛に座って畑を眺めても、麦畑の中にある茶室はどこにあるのか見えない。露地を進み、麦畑の真ん中あたりまで来たところでようやく二畳の空間が現れる。畳に座ると、今までとは違った景色が広がる。麦が壁となり、あれだけ吹いていた風が止んでいる。天井は青空、そして麦の穂と二丈岳、脊振の山々が借景として見え、雲雀の声と風の音、時々電車が通る音以外は何も聞こえない。
自然の姿をあまりいじらず、少し手を入れるだけで自然と調和できる空間。
青々とした麦も、1か月もすれば刈り取られてしまう。1年のうち、この時だけしかできない空間である。
動画へのリンク https://www.facebook.com/kazuki.arita.50/videos/2993417554082434/