展示作家、永武の紹介です。
永武さんは個展を中心に活動されている地元、糸島のアーティストです。
デザイナーとして広告代理店に勤務していた永さんは、33歳の時に安定した会社員生活から芸術の世界へ飛び込みました。
当時、デザインは手作業で組むことが主流な時代だったそう。
しかし、経験を重ね、時代がデジタルに移行する中で、ディレクションすることへの比重が大きくなりだした仕事に違和感を感じ、自身の内面と向き合う芸術の世界へと方向転換されたそうです。
アトリエにさりげなく糸芸のフライヤーが貼ってあります。うれしいですね~。
「アートは自分を表現するもの」そうきっぱり言い切る永さん。
また(自分の創作活動に)現代アートの感覚はない、ともおっしゃいます。
油絵の原始的な技法である、テンペラ画を中心に創作活動している永さん。
その他、廃材や流木等、道に落ちているものも作品へと昇華しています。
絵を描くのが苦しくなったらオブジェを作ってるんです、と何気なく言った言葉に自身と対峙し続ける永さんが見えたように感じました。
アトリエには、テンペラ画だけではなく、エッチング、版画、オブジェと様々な作品があり、その創作レンジの広さにも驚きます。とにかく、いつも何かを作り、手を動かし続けている永さん。
作りたい物が溢れてくるだけなんです、とこれまた当たり前のようにお話されます。
またご自身の創作テーマは「自然物を使うこと」と教えてくれました。
顔料と卵を混ぜて描くテンペラ画もしかり、食品トレイのような発泡スチロールを用いてエッチングしたり、台風の後は素材になる色んな物が落ちているんですよね~、と言われたり…。
発泡スチロールを使ってエッチングした作品
「素材にね、作らされています。」
身近なものを自分の一部のように創作媒体にしている永さんの作品。この言葉が、どこか詩的で憂いを湛えた永さんの作品を象徴しています。
元鍛冶屋を自身の手でリフォームしたアトリエに、これまた自身の手で真っ白く塗り固められたキャンバスなど、このアトリエ自体から、ここにあるほとんど全てのモノが永さんの手で、何かしらの手を加えて再生されている、ということに、「創作」を生業とした芸術家の凄さを感じました。
未だにすすが落ちてくるんでアトリエには不向きな場所なんですけどね、そんなことも柔らかな笑顔でぼやく永さん。
今回の展示作家の中ではベテランの域に入る永さんですが、もしかすると一番、創作のエネルギーに溢れている作家かもしれません。
稲荷の山でも、とある場所に来るととても苦しく感じ、気持ちがざわつくのだと言います。
その場所に捨て置かれているモノ達をどうにかして作品にしてあげたい、そう感じた永さん。
名も無い、私達では見過ごしてしまうようなモノ、それを永さんが作品として命を吹き込み、稲荷の山に展示します。
とても楽しみです。
また、これまで創りためたオブジェを、室内ではない自然の中に展示する、という初の試みもされます。
オブジェ達がどのような存在感を放つのか不安と楽しみで複雑な心境だとおっしゃっていました。
永さんのオブジェそのものは自然物を用いて作られているだけに、何もない人工的な空間でこそ存在感を放つことができるもの。
しかし、自然の中だと、このオブジェ達は同化しすぎてしまうのではないか、そんな話をされていました。
作品の見所というよりも、皆さんにどう見られるのか、それを永さん自身が楽しみにしているんだそうです。
期間中、永さんを見かけたら作品のこと、アートの事、元鍛冶屋だったアトリエのこと…、色んなことをぜひ、語ってください。
永武(Ei, Takeshi/えいたけし)美術家
1947年熊本県人吉市生まれ。
2009年より糸島市を活動の拠点を移す。銅版画、立体、テンペラ画など様々な技法を使って作品制作を行う。
九州各地、大阪、東京などで勢力的に展覧会を行う。所蔵、西日本新聞社、安田火災美術館、北九州美術館