先日、糸芸の本部でもある二丈のアートスペースStudio Kuraで行われたSuyeon Na(韓/米)とHannah Quinlivan(濠)の個展をレポートします。
日が暮れるのも随分と早くなり、夕方6時頃ともなると糸島の二丈はすでに星明り。
オープニングパーティはもう既に始まっていて、牡蠣が焼ける良いにおいと紙コップに入ったワイン、みちこさんの畑で採れたお野菜や、誰かがもってきたレトルトのオニオンスープなどなど、いつ来ても感じる、この色んな食べ物達も参加しているような有機的で雑多なテーブルは一段落ついた様子。
今回、同時期に2組のアーティストが滞在制作をしているということで、個展が同時に開催されることとなったそうです。
まず、毎度おなじみ蔵ギャラリーから。
こちらはHannah Quinlivan(濠)によるインスタレーションで埋め尽くされています。
Hannah Quinlivan個展「Penumbra」
なんだか皆、網にかかったお魚のようになってます。お魚と違うのは皆、とても楽しそうなところ。
作品全体に漂う柔らかな質感とは裏腹に会場内に足を踏み入れると入り口上部に設置されたカメラから定点観測をされている参加者。
ギャラリー内を気持ちよく漂っていると定期的に聞こえるシャッター音。
作品に触れて彷徨って楽しくその世界に浸る私たちを記録しているカメラが不意に違う意識をもたらします。
光を捕まえ、影を作る。そんな不安定な関係性を表した作品なのだとHannahさんは説明してくれます。
天井から垂れさがった、紐のようなテープのようなもの達が蔵にあるライトを乱反射させ、さらに鑑賞者の介入によって更に形を変えます。
その様子を一定のリズムで切り取る定点カメラの存在。
例えば喜びと絶望、光と影、楽観と緊張、そんな何にでも介在する二面性をこの作品は物語っているのかもしれません。
この作品はこれが完成ではないとHannahさん。これから一週間をかけて形を変え、最終日に完成する未完の作品。
Hannahさんはオーストラリアを拠点に活動しています。今回、糸島入りする前にベルリンに2ヵ月、シンガポールに1ヵ月、と滞在制作を精力的に行ってきたそうです。全く異なる風土の地を旅してきたからなのか、糸島に訪れた時期がちょうど不安定な天候だったからなのか、糸島二丈にインスパイヤされたというこの作品からは、いつもの海外アーティスト達が表現する糸島とはまた違う一面を感じます。
しかしまあ、このうねうねとした不思議なリボン、ものすごい作業量だな~と所帯じみたことを考えていたら、
これ、材料はナフコよ(にっこり)、とHannahさん。
オーストラリアの素敵お姉さんからナフコの単語を聞くことができるとは。
話がそれましたが、そういうわけでこの個展のフィナーレはクロージングにあります!
気になったそこのあなた!30日17時からのクロージングパーティーにぜひ来ちゃんなさい!
ここだけの話、ダンスパフォーマンスもあるかもしれません。
深江から見に来ていたお客さんが、クラシックバレエしようって言ったらスカウトされておりましたから。そんなライブな出会いもあるStudio Kura。考えたら毎月のように海外アーティストの個展を見て本人と触れあえる環境は贅沢かもしれないですねぇ。
※参考サイト、Hannah Quinlivan WEBサイト
Suyeon Na個展「Life is Everywhere」
そして、今度はSuyeon Na (韓/米)の展示会場へ。
参加者は思い思いの飲み物を手に、歩いて1分ほどのところにあるレジデンスハウスに向かいます。
冬空の下、ドリンク片手に作品を求めてぞろぞろ歩くのがなんだか妙に楽しいぞ。
まずは縁側から侵入してゲストルームでイラストを見ます。
レジデンスハウスは田舎の立派な一軒家とでも表現しましょうか。玄関先にはタヌキの置物。庭にはお稲荷さん。居間には歴代御先祖様の写真がずらりと飾ってある、そんな日本家屋です。
Suyeonさんのドローイングにもそんな日本のローカルがちりばめられています。
庭におらしゃるお稲荷さんと洋間にあるソファー
上のドローイングに描かれていたソファー。おばあちゃんの家に行くとこげんソファーある~、って感じで皆盛り上がります。
他にも二丈の風景や、着物姿とコーヒーなど、ミックスカルチャーが彼女の独特の目線で描かれています。
中でも神社にある結んだおみくじの密集している光景が印象的だったと言います。
ちなみにこの絵のモデルはStudio Kuraスタッフ。このスタッフさんはよく海外アーティストの作品モチーフになります。
そして日本家屋独特の急斜な階段で2階へ上がります。
色とりどりのハスの花。ここは彼女が滞在している部屋のすぐ隣。
そんなパーソナリティな場所での展示は、彼女から提案だそうです。
滞在中見つけた古い服や生地を細かく紡いだ女性ならではの繊細で遊び心のある作品。
近くでよくみるとアップリケなんかもあったりして、見ていて飽きません。
紅白の糸が川のような流れを作っています。
そのことを質問されて、しばし考え、星空に続く糸?と答えるSuyeonさん。
Suyeonさんの魅力的なところはこんな風に、直感的に細部にこだわるところだと感じました。
自分の感覚を素直に作品に投影している彼女を見ていると、こういうのがアーティスティックと言うのだろうなと思わせられます。
余談ですがSuyeonさんは自転車に乗れないそうです。ここで滞在制作するアーティスト達の足はクラにある自転車。そんなSuyeonさん、滞在中はあまり遠出することもなく、このような細かい作業を部屋に籠ってすることが多かったんだとか。
※参考サイト、Suyeon NaさんのWEBサイト
※参考サイト、Studio KuraのWEBサイト
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2人の女性アーティストによる展覧会。
柔らかい中にも緻密さとテーマをしっかりと打ち出したHannahさん。
Suyeonさんはドローイングやインスタレーションの細かさに反し、場や雰囲気に即応する即興性を感じました。
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今回の二つの個展、それぞれで場所も開催期間も異なりますので、興味を持たれた方はご確認の上、訪ねてみられることをオススメします。
また、Hannahさんは30日、最終日のクロージングにて作品の完成形をお披露目されるそうです。楽しみですね~。
Hannah Quinlivan個展「Penumbra」
日時:11月23日~11月30日 11時から19時まで 入場無料
※30日17時よりクロージングパーティーを行います。
Suyeon Na個展「Life is Everywhere」
日時:11月23日~11月26日 11時から19時まで 入場無料
企画:Studio Kura 福岡県糸島市二丈松末586
場所: 福岡県糸島市二丈松末586
[電車]JR筑肥線一貴山駅より徒歩15分
お問い合わせ:Studio Kura代表 松崎宏史(092-325-1773)